明治時代、栗太郡葉山村手原に私設の図書館「里内文庫」がありました。文庫主は東海道筋の呉服商、里内勝治郎(1877 〜 1956)。里内文庫は、勝治郎の蔵書を元に多種多様な郷土資料を収集し、講習会や展覧会など多彩な事業を行いました。里内文庫が収集した膨大な資料は、現在栗東歴史民俗博物館が保管していますが、その中に『木内石亭文庫』という包みがあります。
木内石亭(1724 〜 1808)は栗太郡北山田村(現草津市北山田町)の人。少年時代より奇石に興味を持ち、精力的な収集活動で数千点の奇石を集めました。その集大成として大作『雲根志』があり、所蔵する奇石類は石亭宅で公開され、東海道の名所にもなるほどでした。しかし石亭没後、収集された膨大な資料は散逸してしまいます。
石亭の偉業を再び世に出したいと考えたのは、栗太郡志の編者中川泉三(1869 〜 1939)でした。昭和11年(1936)には下郷共済会(注)より、『雲根志』を含めた『石之長者木内石亭全集』を出版し、考古学者たちに資料として配布したほか英米の図書館にまで寄贈します。里内勝治郎はこの出版事業に資料調査などで協力しました。
里内文庫で『石亭文庫』としてまとめられた包みには、石亭が最も珍重した21種の珍石について和歌を交えて紹介した『二十一種珍石詩歌 』(「柏亭」藤原宗辟筆・江戸時代後期)や、勝治郎が雑誌『近江と人』に掲載した「石亭資料随録」の下書きのほか、木内石亭全集刊行を報じる昭和11年(1936)の新聞記事などが残されています。里内文庫ではこの『石亭文庫』のほか、木内石亭収集と伝えられる奇石類として巻貝化石やアンモナイト類の化石なども所蔵していました。
精力的に郷土史研究に取り組んだ里内勝治郎は、学者であり近江の博物館活動における先駆けであった木内石亭を顕彰しようとする活動にも積極的に関わっていたのです。
(注) 【下郷共済会】…長浜の豪商下郷家の二代目傳平が設立。博物館設立や地域史編さんなど、文化・福祉事業に貢献しました。
※里内文庫コレクションの木内石亭関連資料は、栗東歴史民俗博物館特集展示『石にみるくらしといのり』スポット展示として2月19日まで公開しています。 |