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夢の森を育てる
 栗東の面積の約半分は森林です。まちの玄関口、栗東駅や手原駅から少し足を伸ばせば、自然豊かな金勝地域。今は、金勝山ハイキングにも最適な時期です。森に一歩足を踏み入れれば、木々や土が香り、息づく生命やエネルギーを感じることができます。
 今月は、市内の取組みを紹介しながら、栗東の豊かな森林を守るためにできることを考えます。

栗東の林業支援につながる滋賀県初の森林認証
 本市の森林面積は2328fで、森林率は44%。林業振興や森林保全の中心を担うのが、金勝生産森林組合です。森林組合は森林所有者が出資し、組合員となって組織する協同組合。金勝生産森林組合は、昭和57年に設立され、平成22年、上砥山生産森林組合、平谷生産森林組合と合併。所有林面積は489・4fで、ヒノキや杉を主に69%が人工林となっています。
 栗東の森林を守るため、金勝生産森林組合は、数々の取組みをしてきました。その一つが、平成23年、滋賀県で初めてとなった「SGEC森林認証」の取得です。この認証があるのは、持続可能な森林経営をしていることの証し。
 「SGEC森林認証」には、「森林管理の認証」と、認証された森林からの生産物を他と混同することなく「分別・表示する認証」の2つがあります。このため、金勝生産森林組合と連携して、県南部地域を管轄する木材原木市場も、後者の認証を取得。両者が森林認証を取得したことにより,「SGEC」マークの付いた金勝産の林産物が市場に並び、消費者がそれを選択・購入することが可能になりました。これにより、栗東の木材を栗東で消費するという、森林を守る循環ができ、私たちは、「SGEC」マークの付いた金勝産の林産物を買うことで、まちの林業を支援できます。
栗金勝産林産物の付加価値を高めるために努力
 「先祖伝来の大切な金勝の山を守り、持続していくため、力を合わせて取り組んできました。森林認証を受けることができたのは、生態系に配慮し、代々、良い経営を続けてきたことの成果です。価値ある木を育てるには長い年月がかかるため、将来にわたり豊かな森を維持していくことを考え行動しています。今、木材だけでは林業は成り立たず、いかに金勝産林産物の付加価値を高めていくかが重要です。若い人に目を向けてもらう仕組みに挑戦していきたい」と語るのは、金勝生産森林組合・組合長理事の澤幸司さん。
 平成28年3月には、森林経営活動団体として滋賀県で初めて、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する「Jークレジット」に登録。また、間伐材の有効活用の一つとして「CLT」と呼ばれる繊維方向が直交するように交互に張り合わせた耐震性に優れる集成材の研究など、将来を見据えた、新しいチャレンジが続いています。
森林保全 〜地元企業が力を合わせて栗東の森を守る〜
栗東の森林をまちの企業が守り育てる
 栗東で、夢ある取組みの一つとして全国的に注目されているのが、平成21年に金勝生産森林組合と栗東市商工会が協定を締結して進める「栗東きょうどう夢の森プロジェクト」。環境にやさしい低炭素社会の構築を目指し、栗東の森林を地元企業が守る取組みです。 滋賀県の「琵琶湖森林づくりパートナー協定」を活用し、市内企業から1口1万円の協賛金を募り、森林整備費用に活用。その証明として、協賛企業にはCO2吸収協力証が発行されています。また、本市の指名入札工事業者選定で、貢献ポイントが付与されます。
 平成21年から26年までの5年間で、延べ576事業所から691口の協賛があり、総額450万円が資金提供され、19.78fの森林が整備されました。協定は平成29年まで期間延長されています。
 「協賛企業には、現地見学も行い、森の変化を見ていただいています。協賛金だけでなく、企業が独自に森林整備をしてくださる事例が出てきたことも大きいです。現在、三菱重工工作機械鰍ェ栗園整備、潟zンダクリオ滋賀が竹林整備、且O東工業社が山桜の植樹・手入れをボランティアで行ってくださっています。夢の森プロジェクトと連動し、栗東にちなんだ特産品として、栗を使った洋菓子の開発・販売も行い、売り上げの一部を環境貢献金として森林整備にあてていますが、この栗も、将来は栗園のものを活用できたらと考えています」と語る、商工会の担当者・小澤尚弘さん。
 この栗園は、「栗東めぐみの森」と名付けられており、平成23年、荒廃地の再生を目指し、500本の栗が植林されました。三菱重工工作機械鰍フボランティア活動のもと、実のなる木も出てきています。「年に2回、社員が追肥作業や獣害予防用保護ネットの設置などをしており、森林組合や商工会の皆さんと交流できる貴重な機会になっています。森の再生や環境保全に少しでも役立つことができたら」と語る、三菱重工工作機械鰍フ担当者・堂田透さん。
 「『栗東きょうどう夢の森プロジェクト』は、夢あるプロジェクトです。企業独自の森林整備として、前述の三社に加え、オムロン鰍ェアカマツ林の再生、リコージャパン鰍ェヒノキ林の間伐に取り組んでくださっています。今後、企業だけでなく、個人の協賛も募ることで、栗東の森林をみんなで守っていくことができたら」と話す、金勝生産森林組合の皆さん。森林保全の新しい形に大きな夢が描かれています。
間伐材に新たな命を吹き込む木地師、井上重一さん
 「栗東きょうどう夢の森プロジェクト」の森林整備は、主に「間伐」が中心です。「間伐」とは、混み合ってきた森林の木々の一部を抜いたり、切ったりする間引き作業。間伐することで、1本1本の樹木が適度な間隔を保ち、太陽光が木の根本や地面まで十分に届く環境になり、木々が豊かに育ちます。
 こうしてできた間伐材などを活用して、さまざまな作品を制作するのが、「木地師」・井上重一さん(78歳・大橋)。「木地師」は、ろくろなどを使って木を削り、おわんやお盆などを作る木工職人のこと。永源寺町(現東近江市)が発祥の地だと言われています。
 「16年ほど前、木地師に興味を持ち、電動ろくろを手作りして独学で試行錯誤しながら作品を作り始めました。永源寺の職人のもとに何度か作品を持って行き、木地師として認めていただきました。間伐してすぐの木は水分を含んでいるため、2か月程乾燥させてから使います。印象に残った光景などは、頭の中で写真を撮るように、イメージを脳裏に焼き付けて作品にいかします。多くの作品を作りましたが、特に大変だったのは、茶筒です。木の水分量や使う人の土地の気候により、百分の一ミリ違うとふたがぴったりと閉まりません。毎日、調整を続けました。木を扱うことは、粘土のように、失敗したら元に戻せるわけではないので、細やかさが求められる仕事です」と語る井上さん。
 井上さんの手から生み出された作品は、道の駅こんぜの里りっとうでも販売され、人気商品の一つになっています。
葉山東小が金勝山のヒノキで遊具作り
 葉山東小学校で、昭和55年の開校時に学校のシンボルとして建てられた遊具「マンモス」。平成21年、創立30周年を記念して建て替えられる時も井上さんが協力しました。
 井上さんは、依頼を受け、旧「マンモス」の廃材を活用して20分の1のミニチュアを作成。「寸法もしっかりと測り、忠実に再現しました。完成までに1か月ほどかかり、特に大変だったのはネットを張る部分です」との言葉どおり、力作は、今も葉山東小学校に大切に展示されています。
 また、記念品として配られたのが、これも旧「マンモス」の廃材を活用した、マンモス型のキーホルダー。全校生徒分の切り抜きを井上さんが行い、保護者の皆さんが力を合わせて手作りしました。
 廃材を無駄にせず、活用しただけでなく、新しい「マンモス」には、金勝生産森林組合により提供された金勝山のヒノキが使われました。栗東の木材が小学校で活用された一例です。「マンモス」は、児童、保護者、地域の皆さんが協力して木の皮をむき、加工し、力を合わせて建て替えられました。 昨年、遊具は一部改修されましたが、今も金勝の木々が子どもたちの成長を見守り続けています。
森で
 林業に携わって3年になります。もともとは美容師でした。この仕事は、体力がいり、けがも多いです。チェンソーで指を切ったこともあり、木は軽く見えていても水分を含んで重く、重機が転覆する可能性もあり、命がけです。それでも、鳥の鳴き声や四季の変化など、森の中では、さまざまなことに気付くことができます。栗東の山は、金勝寺の千年杉など、歴史を感じることができ、パワースポットだと感じています。
 今、薪ストーブに人気が集まるように、森林への関心が高まっています。林業に携わることで、楽しみもたくさん見つけました。森は自然の恵みにあふれていて、クリスマスには、木に巻き付いているツルを巻いて飾り付けし、クリスマスリースを作りました。桜の枝でネックレスもできるようです。そんな私なりの視点で、小さなことから森の魅力を広めていけたらと思います。子どもたちにも、森林の大切さを伝えていきたいです。
地域木材の積極的な活用 〜身近に、金勝の木々が息づく〜
子どもたちに育まれる森林を守る心
 間伐材は、地球にやさしい資源。その積極的な活用に取り組んでいるのが、栗東市商工会女性部の皆さんです。「馬のまち栗東」にちなみ、小学1年生の子どもたちに、交通安全のお守りとして金勝山の間伐材から作った馬のキーホルダーを届けています。
 作製課程は、井上さんが馬型に切ったものに、メンバーの皆さんが色を塗って仕上げます。昨年は、約600個を製作して、配布。栗東の地域資源をいかしたキーホルダーが子どもたちを見守っています。
 また、「子どもたちが栗東の森林を守る心を持ってほしい」と、手渡す時は、キーホルダーが間伐材から作られたことを説明するとともに、森林保全に関する簡単な冊子も配布しています。
 栗東の森林は、教育の場としても重要な役割を担っています。県内の小学4年生を対象に行われている、森林体験学習「やまのこ」事業では、毎年、本市をはじめ、県内の小学生約3500人を受け入れ、活動・宿泊場所には「森の未来館」が利用されています。
 また、森林浴もできる癒しの場、道の駅こんぜの里りっとうや森遊館は、家族で楽しめるレクリエーションの場としても人気です。
可能性広がる「夢の森」を守り育てていくために
 市では、平成27年に「公共建築物等における地域産木材の利用方針」を定め、公共事業などで、金勝産の木材を積極的に活用する取組みを始めています。また、「広報りっとう」「りっとう議会だより」に間伐材を利用することにより、栗東の森林が元気になるように取り組んでいます。
 栗東の森林は、可能性が広がる「夢の森」です。栗東きょうどう夢の森プロジェクトをはじめ、間伐材を活用した取組み、金勝産木材の積極的な活用、アイデアあふれる活動など、多様な人々が関わることで森林への親しみや理解が生まれ、林業を活性させています。このことは、雇用の拡大や地域経済の振興にもつながっていきます。
 まちの約半分を占める森林は栗東の宝。心地よい季節、まずは、金勝山ハイキングなどで、森林に親しむことから始めてみませんか。今後もまち全体で、「夢の森」を守り、育てていきましょう。
森で
 平成13年から、都市近郊の里山地域の活性化のため、自宅裏に所有する里山「こんこん山」を「こんぜ桃源郷」と名付け、保全・体験活動をしています。
 ツリーハウスや竹ごはん作り、木々で作製した動物を配置した「山の動物園」の開園など、子どもたちの創造力をいかし、豊かな遊びの場を提供してきました。小さい頃、ここで遊んだ人が子どもを連れて遊びに来てくれたこともあります。人がつながり、交流することで、山への愛着、栗東への愛着が生まれます。活動することで、山も活性化します。
 栗東には琵琶湖はありませんが、山があります。豊かな森林を有する金勝の里山には多くの可能性があります。例えば、子どもの自然体験学習の場として活用できます。高齢者が子どもたちを見てあげることで、道徳教育もでき、高齢者の居場所作りにつながります。今後も、桃源郷(ユートピア)を目指し、林業や農業の新しい形に挑戦し続けていきます。
林業振興に関する問合せ
農林課 林務係 TEL.551-0125 FAX.551-0148
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