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認知症特集 住み慣れた地域で
 団塊の世代が75歳の後期高齢者になる平成37年。栗東では、5人に一人が65歳以上の高齢者となり、25人に一人が認知症高齢者になると推定されています。
 認知症は若くして発症する例もあり、決して他人事ではありません。今月は、認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らしていくことができるまちを考えます。
 「甚太郎さんは、頭があかんようになってしまった」。
 母を介護してくれていた父が認知症に。
88歳の父と91歳の母を自宅で介護
 金勝の自然豊かな山間にある、中西まさ子さんの家。67歳のまさ子さんは、実家で両親二人を介護中です。父の甚太郎さんは、88歳。要介護2で、認知症があります。母の米さんは、91歳。要介護3で、自力では歩けない状態です。
 57歳の時、膝関節の手術後、身体が不自由になり転倒しやすくなった米さん。入退院を繰り返しながら、平成16年、78歳の時、患っていた、大腸がんを手術しました。退院した翌日に、風呂で尻もちをつき、胸椎を圧迫骨折。家で介護が必要な状態になり、自宅をバリアフリー改修。平成27年、骨祖しょう症のため、大腿骨頸部を骨折し、車いすでの生活となりました。
 まさ子さんとともに、米さんを介護してきた甚太郎さんでしたが、平成23年、82歳の時、バイクに乗っていた際に自動車に接触され、頭部や顔面などを打撲。その後遺症から、平成25年に正常圧水頭症を患い、脳に水を抜く機械を入れる手術をしました。約3年前から認知症の症状が出始め、現在、甚太郎さんと米さんは、二人とも、まさ子さんの家族に支えられて生活しています。
介護の負担を減らすデイサービス
 「母は認知症ではありませんが、私の行動が遅いと、怒って自分のおむつを私に投げることもあります。父も、勝手に冷蔵庫のものを袋ごと食べたりします。二人を介護するのは精神的にも大変で、難聴になってしまいました。疲労から倒れたこともあります」と語る、まさ子さん。
 「栗東市介護者の会」があることを知り、平成25年から参加。介護者に性別は関係ないと実感するとともに、甚太郎さんよりも重い認知症の人を介護しているという話から、「私が負けていてはだめだ」と気持ちを奮い立たせたそうです。
 また、まさ子さんの負担を減らしているのが、デイサービス(通所介護)。二人は、日帰りで施設に通い、食事や入浴など日常生活上の介護や機能訓練などを受けています。
 「デイサービスが休みの日に、父が徘徊したり、勝手にお風呂に入り、救急車をお願いしたこともありました。両親はそれぞれに合った、別のデイサービスに通っていますが、その時間は、精神的にとても楽です。デイサービスの存在は大きいです。ケアマネージャーさんは二人とも同じ人が担当してくださっていて、信頼できる人に出会えたことも心強いです」と話してくださいました。
自らの体験から認知症予防のために活動
 まさ子さんは介護を機に仕事を辞め、大変な中にあっても数々のボランティアをしてきました。最近は自らの体験から、認知症予防のため、脳トレやノルディック・ウォークを広めるために活動。また、認知症介助士の資格取得に向けて勉強中です。
 「大変だからこそ、いつも笑顔でいるように心がけています。母は、ずっと住んでいるこの家を『終の棲家』にしたいと常に言っています。私もここで両親と一緒に死ぬつもりです」と続けます。
 母の米さんは、「ずっと働きものだった甚太郎さんは、頭があかんようになってしまった。ケンカもするけど、まさ子にはとても感謝しています。デイサービスで教えてもらったことなど、よいことはすべて取り入れ、毎日、感謝しながら生きています」と話してくださいました。
 介護をとおして親子の絆がより強いものになっています。
 
認知症への理解を
認知症サポーター養成講座
「認知症サポーター養成講座」で広がるサポーターの輪
 もし、自分や家族、身近な人が認知症になった時、どのように接したらいいのでしょうか。
 市では、平成18年から「認知症サポーター養成講座」を開催。そのような場面を想定して、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、できる範囲で手助けする「認知症サポーター」を広げています。 講座は無料で、受講者の年齢や職業に合わせ、劇やクイズなどで楽しく学んでもらえる1時間程度の内容。受講者には、「認知症の人を支援します」という意味を示す、オレンジリングが渡されます。サポーターは何か特別な活動をするのではなく、例えば認知症になった人や家族の気持ちを理解しようと努めることや、自分のできる範囲の手助けをすることなどが期待されています。
キャラバン・メイトと市が協働で開催
 「認知症サポーター養成講座」は、市民ボランティアの皆さんと栗東市地域包括支援センターが協働で開催しています。ボランティアに携わるのは、「認知症キャラバン・メイト」と呼ばれる11人の皆さん。全員が認知症の人を介護した経験があり、「一人でも多くの人に認知症サポーターになってもらえるように」と、講師を務めています。
認知症を知る市民だからこそ伝えられる思い
 平成26年から、数少ない男性メンバーの一人として活躍するのが奥野達夫さん(71歳)。
 「認知症に関連する仕事に関わっていたことや、母が認知症だったことがきっかけで、メンバーになりました。母は兄夫婦が介護してくれていましたが、厳格で仕事一筋だった兄が、母をお風呂に入れて介護してくれている姿に頭が下がる思いで涙があふれました。また、徘徊した時、近所の人が見つけてくださったこともあります。
 認知症を正しく理解し、本人や家族の思いに寄り添える人が増えるようにと、勉強させていただきながら、メンバーの皆さんとともに思いを一つに活動しています」と話してくださいました。
 認知症を知る人たちだからこそ、世代を超えて伝えることのできる思いがあります。
3,000人以上が認知症サポーターに
 「認知症サポーター養成講座」から誕生した認知症サポーターが3,394人になりました(平成29年9月末受講生の延べ人数)。市民全体の約4%が講座を受講したことになります。
 認知症の人は高齢者(65歳以上の人)の5〜7人に1人といわれているため、認知症の3人を認知症サポーター5人で支えている状態です。しかし、認知症サポーターの半数以上が60歳以上であり、今後、高齢者の増加に伴い認知症の人もますます増加すると予測されます。
 市では、児童館、小学校、企業、市役所などでも講座を開催し、オレンジリングの輪を広げています。一人ひとりが認知症の正しい知識を持ち、市全体で支援を広げていきましょう。
広がれ!オレンジリングの輪
  自らの介護経験などから「まちの人が認知症を正しく理解し、認知症になっても安心して暮らせるまちにしていきたい」と活動する皆さんがいます。
 認知症の人や家族をあたたかく見守る支援者を増やしているのは、そんな皆さんの力です。
オレンジリングフェスタ栗東
オレンジリングフェスタは一人の女性の思いと行動から
 認知症を考えてほしいと、昨年から開催されている「オレンジリングフェスタ栗東」。今年も10月1日に開催され、認知症サポーター養成講座、介護用品の展示、段ボールハウスづくりなど、大人も子どもも楽しめるイベントで多くの人が認知症を知るきっかけになりました。
 イベントを企画したのは、実行委員長である島田優子さん(26歳)。小学4年生の時、祖父が脳卒中で倒れ、認知症になりました。島田さんは大学で認知心理を学び、卒業後、介護現場に飛び込みます。介護福祉士の資格を取り、生活相談員として活躍する中、企画した「オレンジリングフェスタ栗東」には約100人が来場。昨年は、認知症の人や家族、支援者などが市内4か所から思いを込めたタスキをつないで走り、支援の輪を広げました。
認知症を正しく知り、適正なサポートができるまちに
 「オレンジリングの普及率を上げ、認知症を前向きに捉えてもらいたいと企画しました。父のいない私にとって、一家の大黒柱で、大きな存在だった祖父。そんな祖父が認知症になり、当時は不安な気持ちを祖父にぶつけてしまっていました。
 私もそうだったように、家族に認知症の人がいると周りの人に知られるのが恥ずかしいと思い、イライラする気持ちを家庭内に溜め込んでしまう人もいます。介護する人たちは、自分一人ではありません。このような場で、皆さんがつながれたらいいなと思います」と語る島田さん。
 「認知症は、本人が一番不安だということを理解してほしいです。認知症になっても、感情は残ります。話を聞いてもらえて『うれしい』気持ち、怒られた『悲しい』気持ち。すべて残るのです。漢字にあるように、『正』しく『知』る『心』をみんなが持ち、少しの適切なサポートがあれば、認知症の人も、住み慣れた地域で自分らしく、暮らしていくことができます。大好きな栗東がそのようなまちになればうれしいです。祖父は今も地域の人たちに見守られて、元気に栗東で暮らしています」。
 一人の女性の思いがまちを大きく動かしています。
安心できる支援体制
行方不明高齢者SOSネットワーク認知症高齢者等事前登録
 「行方不明高齢者SOSネットワーク」は、警察だけでなく、地域の関連団体などが協力して、認知症高齢者が道に迷った時にできるだけ早く自宅に帰れるように地域で見守ったり、行方不明になった時にすみやかに発見保護する取組みです。
 「認知症高齢者等事前登録」は、万が一の行方不明に備え、事前に本人の情報を市役所、地域包括支援センター、警察署で共有するものです。保護された際に警察署での照合などにも役立ちます。
対象…65歳以上で在宅で生活し、認知症などにより道に迷うおそれのある人

※登録番号の書いた反射シールを靴や自転車など、日頃外出時に利用するものに貼っておくと、行方不明時の目印になります。

■地域企業とも連携して早期発見

※現在、58の事業所が行方不明高齢者SOSネットワークに登録しています。万が一、認知症高齢者が行方不明になった時、協力企業などは、通常業務の範囲内で行方不明高齢者を発見した場合、市や警察に発見の情報を提供します。
登録事業所の一覧は、市ホームページをご覧ください。

参加者がゆったりと交流 にこにこカフェ(認知症カフェ)
 認知症の人とその家族、地域住民などの誰もが気軽に参加でき、集える場所です。
 市内2か所で定期的に行っており、認知症の人だけでなく、認知症の人を支える家族や地域の人も多く参加しています。
「高齢者や認知症の人にやさしい地域づくり」
 おいしいコーヒーを飲みながら、楽しい時間を一緒に過ごしませんか。認知症の人や家族、地域の人…。どなたでも気軽にお越しください。専門職がいるので相談にも応じます。
■にこにこカフェ「大宝の郷」 TEL.554-7557
日時…毎週水曜日 11時〜15時
 ※この時間帯の出入りは自由
料金…無料
場所…大宝の郷(綣八丁目17-54※JA大宝の奥)
「誰もがなじみのある暮らしや地域とつながり続ける」
 地域のみんなと楽しく作って、おいしいお昼ごはんを食べましょう。カフェタイムでまったり過ごすこともできます。次回は11月19日(日)に開催します!
■にこにこカフェ「こんぜ」 TEL558-0056
日時…奇数月の指定日曜日 
 11時30分〜13時30分 
 ※この時間帯の出入りは自由
・料金…300円
場所…こんぜの郷デイサービスセンター(御園2025-2)
認知症は早期診断・対応が重要
 認知症になっても安心して暮らし続けることができるまちであるため、市では、地域包括支援センターを中心に、サポートしています。認知症の悩みや相談は、気軽に地域包括支援センターへ。
■地域包括支援センター(市役所内)  TEL.551-0285
 ※担当学区:治田、治田東、治田西、金勝、大宝、大宝東、大宝西
■葉山地域包括支援センター
 (特別養護老人ホーム淡海荘内) TEL.552-5280
 ※担当学区:葉山、葉山東
早期診断・対応が大切!認知症初期を専門チームが支援
 9月に栗東市認知症初期集中支援チームが発足しました。認知症またはその疑いがある人や家族の自宅をチーム員が訪問して、相談に応じ、今後の生活を一緒に考えます。また、必要に応じて主治医、介護サービス事業所と情報共有し、連携していきます。気軽にご相談ください。

■どんな悩みを相談できますか?
・最近、物忘れが多くなってきた。誰かに相談したい。
・家族が認知症かもしれないが受診してくれない。どうしたらいいか分らない。
・介護に困っているがどうしたら良いか分らない。
■どんな人が対象ですか?
 本市在住で40歳以上の人と家族です。
■チーム員は?
 認知症専門医と専門知識をもつ保健師、社会福祉士、看護師などの専門職で構成しています。
 専門職2人以上でチームを組み、支援にあたります。
平成37年には市の25人に一人が認知症に
●平成27年(2015年)国勢調査
  栗東市 全国
人口 66,749人 約1億2,709万人
高齢者人口 11,721人 約3,347万人
高齢化率 17.56% 26.6%
認知症高齢者※有病率による推計 1,837人 525万人
人口に対する認知症高齢者 約37人に1人 約25人に1人
●平成37年(2025年)推計値
国立社会保障・人口問題研究所 「日本の地域別将来推計人口」
  栗東市 全国
人口 68,786人 約1億2,254万人
高齢者人口 13,482人 約3,677万人
高齢化率 19.6% 30.0%
認知症高齢者※有病率上昇の場合 2,696人 730万人
人口に対する認知症高齢者 約25人に1人 約16〜17人に1人
認知症の人や家族の気持ちに寄り添うことが大切

宮川 正治さん
認知症専門医・
南草津けやきクリニック院長
 認知症は日常生活の中で変化が出てくる病気です。買い物に行って冷蔵庫の中身が思い出せない、何回も繰り返して同じ事を聞くなど、忘れることを中心に日常生活上で起こります。初期のサインを見逃さず、自身や家族ができるだけ早く病院を受診することが大切です。認知症を引き起こす病気の多くは治せませんが、早く気付き、受診することで進行を遅らせることもできます。
 周囲のサポートとして大切なのは、支援する人が「病気だから」という視点で治そうとアプローチして、本人の気持ちをしんどくさせないことです。今までどおりの接し方でサポートしてあげてください。地域でも、家族に責任を押しつけたり、安易に「病院に連れて行ったら?」という言葉は禁物です。
 大切なのは認知症の人や家族の気持ちに寄り添うことです。自分が認知症になった場合や、家族の立場を考えてみてください。あからさまなサポートではなく、その人たちが気付かない程度の見守りをしていただけたらと思います。あたたかな見守りがあれば、認知症の人も地域で自分らしい生活を送ることができます。
 9月に発足した、栗東市認知症初期集中支援チームに専門医として参加しています。専門チームで「この人がいるなら行ってみよう」と思っていただけるような信頼関係を築き、一人でも多くの人を支援していけるように取り組んでいきます。
認知症を考える講演会を開催
■宮川正治さんの講演「知ってあんしん!認知症」
・日時…12月2日(土)14時〜 
・場所…なごやかセンター
・料金…無料
・定員…先着100人(11月6日(月)から申込み開始)
・問合せ 申込み…地域包括支援センター TEL.551-0285 551-0548 メール:[email protected]
来月号の特集は、「市の財政公表」の予定です。
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