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まちで生まれている多くの創作活動。その中には福祉作業所や病院といった場所ではぐくまれる栗東ならではのアート(芸術)があります。
「より身近に多くの人に楽しんでほしい」と開かれた空間で発信されるアートが、人の心を動かしています。
栗東なかよし作業所の陶芸
世界的に有名な作品が生まれる観音寺窯
平成12年に完成した、栗東なかよし作業所の観音寺窯。豊かな自然に囲まれ、ゆったりとした時間が流れる場所で、数々の陶芸作品が生まれています。
創作に励む一人が、トゲに覆われた独特の作品で世界から注目を浴びる澤田真一さん(36歳・小柿)。平成25年、イタリアで開かれた世界最大の芸術祭、「第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展」に召喚され、世界にその名を響かせました。
自閉症と知的障がいを抱える澤田さんは平成12年、草津養護学校卒業後、栗東なかよし作業所の一員になり、翌年から本格的に陶芸を開始。美術の専門的な教育を受けていない人が、自身の内側から湧きあがる衝動のまま表現した芸術で、「生の芸術」と訳される「アール・ブリュット」の世界でまたたく間に有名になりました。
澤田さんに今、大きな影響を与えているのが、紺谷彰男さん(48歳・綣)です。紺谷さんが生み出すのは、沖縄などで見られる獣の像「シーサー」を思わせるものや小さな作品。同じ場所で創作活動をするうちに、澤田さんの作品にもその要素が表れるようになっています。
生きて暮らすすべてを陶芸で表現
精神障がいがあり、平成27年の秋から作業所の一員になった紺谷さんは、「造形活動のポスターにひかれて体験後、ここに入りました。陶芸をしてから、感情が安定するようになり、作品が完成したら達成感があります」と語ります。
当初から創作を支援する池谷正晴さん(85歳)は「障がいのある人が表現する世界は無限の可能性があり、言葉では言い表せません。彼らの生きて暮らしているすべてを表現したものがこれらの作品です。二人は互いに影響を受け合いながら、自分を表現しています」と話します。
澤田さんと紺谷さんは、冬場を除く、毎週月・火曜日に観音寺窯で心が向かうままに、自分の世界を陶芸をとおして伝えています。
地域に開かれた作業所で広がる可能性
第二栗東なかよし作業所(平成16年設立)は、地域に開かれた作業所を目指し、交流活動にも積極的です。毎年の「なかよし生活展」では、利用者の陶芸など約300点が展示され、作品を身近に鑑賞することができます(14ページで紹介)。また、澤田さんの作品が常設されています。
「窯には誰が来ていただいてもかまいません。年に2回、利用者の家族と協力し、『窯焚き』をします。作品を3日間焼き続けるのですが、夜の星空はとても美しいです。子どもたちもここに来て自由に作品をつくっています。市民主催の『ランチ会』で来てくださった皆さんとの交流会をしたこともあります。
『アール・ブリュット』として評価されるものばかりでなく、作品はそれぞれに自分の世界を表したもので、個性があります。ぜひ身近に作品を感じていただきたいです。障がいのある人が素晴らしい力を持っていることをより多くの人に伝えていけたらと思います」と続ける池谷さん。
身近に作品を感じる展示や交流により、障がいのある人の持つ力や可能性がいっそう広がっています。
命の源にふれるような衝撃ある作品たち
平成26年に作業所で開催された澤田真一さんの展示会を訪れたことがきっかけで作品にひかれるようになりました。ここで生まれる作品は、自分たちが今まで見てきたものを超越し、心が揺さぶられます。命の源にふれるような衝撃があります。
皆さんを枠にはめず、寄り添う池谷先生も素晴らしいです。観音寺窯も訪れ、ここで多くのつながりができました。さまざまな角度から作品を楽しむことのできる「なかよし生活展」も毎年楽しみにしています。
斉藤昭男さん・佐知子さん(湖南市・写真中央)
陶芸作品などへの問合せ
第二栗東なかよし作業所(小野455) TEL.554-5601
済生会滋賀県病院の「成長する絵」
段階的に姿を変える絵が訪れる人を元気づける
大橋にある済生会滋賀県病院。ここで完成に向けて段階的に姿を変える「成長する絵」が訪れる人を元気づけています。
絵画を創作しているのは、画家の安積由里子さん(40歳・安養寺)。大阪芸術大学で彫刻を学び、消しゴムはんこ作家として活躍してきました。平成29年1月、趣味の合気道の稽古中に左手中指を負傷。済生会滋賀県病院に通ったことがきっかけで「アートボランティア」に登録しました。
「成長する絵」の創作は、平成29年7月から開始。四季を感じてもらおうと、1作目「朝顔」、2作目「輪廻」、3作目「月光」と夏、秋、冬の季節ごとに描いてきました。
例えば「輪廻」は、9月から週2回のペースで描かれ、約1か月で1枚の絵が段階的に変化。最初は緑色だった葉が黄色、赤色になるとともに、葉で顔をかくしていた女性が、最後は舞い散るもみじの中を駆ける構図で完成しました。完成した絵は、その季節が終わるまで病院に展示され、病院を彩っています。
四季4部作の最終として、4月からは「生命」をテーマにした絵画「祈り」を創作しています。
患者さんに寄り添い創作を公開
「大学を出て、絵画は自分に才能がないとあきらめていましたが、縁や流れに身を任せ、今、ここで絵を描いています。人の役に立とうとする思いを主軸に、だれもが支え合って働くことができたらといいな思っています。絵画も、お互いを支え合う一つの仕事として社会に組み込まれていくことが理想です。
お聞きした話で、自分の描いた絵を患者さんの病室に飾っている病院の先生がいました。先生は画家ではありませんが、軸が自分ではなく患者さん側にあり、まさに患者さんの心に寄り添い、描かれた絵だったそうです。私もその先生のように患者さんに向かいたいという思いを持ち続けています」と語る安積さん。
「窓から入る光がとても気持ちよく、病院でありながら、まるで美術館のよう」と表現する空間で創作に励んでいます。
絵の成長が分かるように、創作は公開。絵を見た中川早知子さんは「美術系大学への進学を目指す孫の姿と重なります。骨折し手術を受けましたが、春らしく柔らかな色使いで、暗くなっていた心が和みました」と話してくださいました。
美術館のような空間で職員とともに取り組む
「患者さんや職員さんに向けて、病院にあったらいいなと思う絵を描いています。人前で描くことは失敗できず、精神的にしんどい作業です。そんな時に、いつも職員さんが声をかけてくださり、気持ちを盛り上げてくださいます。 娘の友達がケガをしてここに来た時、私が描いた絵とは知らずに『病院の朝顔の絵がきれいだった』と言ってくれていたことを聞き、うれしく思いました。身近に、そして気軽に多くの人に見ていただき、皆さんそれぞれに感じていただけたらと思います」と続ける安積さん。
美術館のような光が注ぐ空間で職員とともに取り組む創作が、多くの人にエネルギーを与えています。
病気と闘う場に明るさと元気をもたらす
病気と闘う場であり、無機質な空間で描かれる絵は、明るさにつながっています。気持ちの変化に敏感になっている患者さんにとって、成長していく絵は、プラスのイメージとなり、元気を与えてくれています。絵の成長は、病気から元気になる病院の意義と重なります。
「朝顔」の絵は、葉から徐々に花をつけ最後はアゲハチョウが飛ぶ構図で完成しました。私や職員もその過程で一部を描かせていただき、思い出深い作品になりました。病院を支えるボランティア活動に感謝しています。
牧石徹也さん(腎臓内科医師・ボランティア委員会所属)
「成長する絵」展示などへの問合せ
済生会滋賀県病院(大橋二丁目4-1) TEL.552-1221
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