栗東歴史民俗博物館では、6点の梵鐘をロビーで展示しています。これらの梵鐘は、栗東市辻にルーツを持ち、鋳物を造ることを生業とした辻村鋳物師の作品です。
戦国時代の終わりごろには活動を確認できる辻村鋳物師は、その後、全国各地に進出してさまざまな作品を残し、江戸時代を代表する鋳物師となっていきます。一方で地元の辻村にとどまって活動した鋳物師も多く、栗東市とその周辺にもたくさんの作品が伝わっており、栗東歴史民俗博物館では、梵鐘や鰐口、鍋、釜など、地元に伝わった辻村鋳物師の作品の収蔵・展示に取り組んできました。ロビーで展示している梵鐘は、新しい梵鐘を造るなどして不要になり、所有者の意向で博物館に収蔵されることになったものです。
ところで、江戸時代に造られた辻村鋳物師の作品の中には、歴史の中で失われ、現在に伝わっていないものも数多くあります。とりわけ、多くの作品が失われるきっかけとなったのが、昭和16年(1941)に出された金属回収令です。日中戦争から太平洋戦争にかけての時代の日本では、輸入品を中心に物資が不足したことから、人びとの身の回りから金属を回収し供出するよう求めたもので、各家庭の鍋や釜といった日用品だけではなく、寺院に置かれていた金属製の仏具も対象となりました。特に、梵鐘が供出される際には、兵士の出征と同様に壮行会が開かれ、寺院の関係者や地元の人びとが集まって、梵鐘を見送りました。その時の様子は多くの地域で写真に収められ、時代の雰囲気を現在に伝える貴重な資料となっています。
栗東歴史民俗博物館で展示している梵鐘の中には、太平洋戦争中にいったん供出され、成分分析のために空けられた穴が残る江戸時代の作品や、もともとあった梵鐘が供出されて失われたために、戦後まもない昭和23年(1948)に新たに造られた作品などが含まれています。梵鐘としての役目は終えたものの、苦難の時代を伝える資料という役割を担っているのです。
※栗東歴史民俗博物館では、7月14日(土)から、特集展示「平和のいしずえ2018〜戦下の人びと」を開催します。 |