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りっとう再発見 栗東に残る日清戦争
 ここに紹介した写真は、栗東市荒張の馬頭観音堂付近の山中に生えている松の木です。樹齢はおそらく90年以上になる古木ですが、太い幹に大きな傷があるのがおわかりでしょうか。近寄ってよく見ると、樹皮を深く削ったところに矢羽根のような刻みが入れられています。自然にできた傷ではなく、人の手でつけられた傷です。この辺りの山中には、このような傷がある松の木が100本以上生えています。正確な数はわかりません。松の木に傷がつけられたのは今から約80年前のこと。太平洋戦争の最中に、松脂を採取するためにつけられた傷あとなのです。

 太平洋戦争は、昭和16年(1941)12月から昭和20年(1945)8月にかけて、日本がアメリカ合衆国やイギリスなどの連合軍と戦った戦争ですが、その後半になると、日本では飛行機などの燃料となる石油の輸入が途絶え、深刻な燃料不足に悩むようになりました。そこで石油の代わりに飛行機の燃料として考え出されたのが、松の根から精製する「松根油」や、松の木を傷つけて採取する「松脂」など針葉樹から採取する油でした。
 油の生産は全国で行われ、地域ごとに生産ノルマが設定された厳しい事業でした。昭和19年の新聞記事には、栗太野洲2郡に割り当てられた松根は約470トンで、4万リットルにもおよぶ膨大な量の油を生産したことが記されています。戦争中は若い男性の多くが兵士として出征していたため、この採取に従事したのは、地域に生活する女性や高齢男性、そして子どもたちだったといいます。金勝山中に残されたこれらの松の木の幹には、太平洋戦争下の地域の人びとの苦難の歴史が刻まれているのです。

 栗東歴史民俗博物館では、本市の「心をつなぐふるさと栗東」平和都市宣言を受けて、平成2年度の開館時より「平和のいしずえ」展を夏季に開催しています。
 戦争と平和について考えるための機会として、皆さんのご来館をお待ちしています。

■特集展示「平和のいしずえ2022」
 会期…7月16日(土)から9月4日(日)
※詳細はお知らせ版こちらをご覧ください
問合せ
栗東歴史民俗博物館 TEL.554-2733 FAX.554-2755
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