栗東よもやま話(1)
岩上神社の伝説と団子祭(岩上講)   栗東市伊勢落


 東海道に沿った細長い伊勢落の集落は、東西に二分され、西は岩上神社を氏神としています。大正時代の『近江栗太郡志』には、岩上神社は当初日向山の頂上にありましたが、文明3年(1471)に兵火にかかり、永正元年(1504)に現在の地に遷宮されたとあります。また、『葉山村郷土誌』には、同社は遷座前、日向山の巨岩の上に祀られていたためにこの名がついたとあります。江戸時代の『近江輿地志略』にも、日向山中の巨石が岩上社旧社地「鎮座石」の名で紹介されています。いずれも伝説ですので、真実は分かりませんが、岩上神社は素朴な岩神、巨石信仰に源を持つ社であったようです。

 この神社に伝承される祭礼もユニークなもので、正月、5月、10月の年3回、いずれも12日に同様の神事がおこなわれてきました。現在は、正月のみ「岩上講」と称し、ほか2回は「団子祭(しとぎ祭)」と呼んでいます。江戸時代の古文書をみると正月、6月、11月におこなわれており、おそらく、明治5年(1872)に旧暦から新暦に改暦された際に行事月が一か月ずれたのでしょう。

 神事は早朝からはじまり、当番2人がバランと藁苞に挟んだシトギ(粢)と青竹の御幣を、岩上神社に運びます。当番は閉め切られた本殿に入り、持参したシトギを小さくちぎって樫の葉の上に載せ、本殿の木階に並べます。集まった参拝者は本殿の板格子の隙間から手を入れ、「おくれ」と口々に呼びかけて、当番からシトギをもらいます。最後に本殿から、さい銭撒きがおこなわれて神事は終了し、午後から当番宅(現在は伊勢落会館)でボウダラの味噌煮を中心とした岩上講の宴席がもうけられます。散会の合図にシトギの菱餅が出されます。

 米粉を湯で練っただけのシトギは、神饌のなかでも原始的な形態のものと考えられています。行事月はそれぞれ、年頭、田植後、収穫後の時期にあたり、この月に稲作の象徴ともいえるシトギを神供する行事は、稲作農耕のサイクルに沿った豊穣祈願の祭りといえるでしょう。


(「りっとう再発見」25 『広報りっとう』819号(2007年4月号)掲載)


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