近江地方史研究の魁(17

郷土資料収集を勧める

 一九一二(大正元)年、『近江坂田郡志』を執筆中の中川泉三に一通の手紙が届く。差出人は里内勝治郎(一八七七〜一九五六)。栗太郡葉山村手原(現栗東市手原)に私立図書館里内文庫を設立した人物である。内容は泉三が発表した論考「近江坂田郡の条里」に対する問い合わせであった。

泉三が初めて手紙を受け取る人物であったが、設立時には九千冊の蔵書を誇り、里内文庫の評判は遠く坂田郡にあった泉三のもとに届いていた。盛時には図書館がない地域に図書を貸し出す“巡回文庫”や地元小学校に“児童文庫”を設置するなど多彩な活動を行なっていたからである。

この手紙に泉三は回答を記すとともに、里内文庫の事業として、栗太郡の古刹、金勝寺と芦浦観音寺に伝わる古文書などの郷土資料収集に取り組むよう勧めている。また、それらは地域や国の共通の財産であることを説き、失われていくことへの危惧の念を書き記している。

 泉三の返事から半年後、勝治郎は郡内の古文書収集に乗り出し、多くの郷土資料が文庫に納められ、後に泉三が『栗太郡志』を編纂した際の基礎資料となった。今でも栗太郡の歴史を紐解こうとするものは、必ず里内文庫をたずねなければならない。

 里内勝治郎が、郷土資料収集を行わなかったら、わたしたちは数多くの「又と得難き宝物」(泉三の言葉)を失ってしまっていたかもしれない。



        郷土資料の宝庫、里内文庫内での里内勝治郎




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