近江地方史研究の魁(20

地域おこしにも一役

 中川泉三は郷土史研究や郡誌編さんが地域社会の活性化につながることを望んでおり、こうした考えは、泉三とともに『近江栗太郡志』編さんを行った者へも受け継がれた。

 郡誌編さんで、編集委員をつとめた金勝村(現栗東市)立尋常高等小学校長、久保久一郎は編さん事業中の一九二四(大正十三)年、狛坂磨崖仏をはじめとする金勝村内の名所旧跡十二ヶ所を“金勝十二景”として選定している。十二景は、近江金勝保勝会が観光パンフレットや絵はがきを作成し、全長三十二キロのハイキングコースとして宣伝された。

 また、資料収集委員として活躍した里内勝治郎は、郡誌編さん事業の枠を超えて、多くの郷土資料収集とその研究を行った。例えば、葉山村手原(現栗東市手原)にまつわる手孕み伝説に関心を寄せている。女が手を産みおとしたという手孕み伝説は、手原の地名の由来ともいわれ、歌舞伎「源平布引滝」の下敷きにもなっている。勝治郎は当時劇場にあげられた絵看板から、江戸時代の絵番付(ちらし)まで多くの資料を集め、雑誌に紹介するなどして伝説の啓発につとめた。

 久一郎が金勝十二景で取り上げた狛坂磨崖仏は、現在、散策路が整備され人気のハイキングコースとなっている。JR手原駅前には手孕み伝説を示す大きな手のモニュメントが立てられ、地域の歴史文化啓発に一役かっている。

 泉三がまいた地域活性化の種は、泉三に関わった人びとに受け継がれ、現在でもしっかりと地域に根付いている。



        1924(大正13)年につくられた金勝十二
景のパンフレット



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