栗東よもやま話(4)
九品の滝   栗東市井上

 栗東市井上から観音寺の集落へと向う上り坂の途中、わき道を少し入ると大きな滝があるのをご存じでしょうか。高さ約20メートル、渓流を含めた延長は100メートルに及び、湖南地域最大の滝といわれます。滝は大きく三段に分かれ、それぞれが三脈に分かれています。滝の九脈と、浄土往生の九種の段階を示す仏教用語“九品”とをかけて、この滝は“九品の滝”と呼ばれています。

 現在では観光スポットとして知られる九品の滝も、大正期以前には地元以外ではあまり知られていなかったようで、江戸時代の観光名所を紹介した“名所図会”や“道中記”、近江国の地誌を紹介する『近江輿地志略』のような資料にも九品の滝は登場していません。また、絵図などにも描かれることもありませんでした。

 九品の滝が外部にむけて紹介された最初は恐らく、明治18年(1885)に井上村の地理や歴史を紹介した「近江栗太郡井ノ上村誌」だとみられます。ただし、ここでは九品の滝という名前もつけられていませんでした。単に地名、もしくは 九品の滝が流れ落ちる川の名前からとって、“井上滝”と紹介されています。同誌で井上滝(九品の滝)は次のように紹介されています。

 本村大字井上なる谷山にありて、小佐治川の上流、井上川の水源にあり、飛泉三段となる、一を奥瀧と云ひ高さ二丈四尺、二を大瀧と云ひ高さ四丈、三を門瀧と云ひ高さ一丈二尺あり。
 (原文はカナ書き)

 この記述によれば、九品の滝は三段からなり、上から順に奥滝、大滝、門滝とそれぞれ名前が付けられていることがわかります。このことから、九品の滝が地元ではよく知られていたことがうかがえます。

 九品の滝が大々的に観光スポットとして紹介されたのが、大正13年(1923)のことです。この年、金勝では金勝保勝会という団体が組織されました。金勝保勝会は、金勝地域の観光資源の開発に力を入れ、金勝の名スポットベスト12ともいうべき“金勝十二景”を制定しました。九品の滝はこのベスト12に選出されたのです。そしてこのとき初めて、“九品の滝”という名前が付けられたのでした。

(「りっとう再発見」33 『広報りっとう』827号(2007年12月号)掲載



金勝十二景絵葉書より九品の滝
(栗東歴史民俗博物館蔵)


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