栗東よもやま話(5)
上砥山の山の神行事と十九道山   栗東市上砥山



山の神行事は年頭にその年の豊作を願って行う行事で、市内でも数か所で行われる行事です。

 上砥山の山の神では4人の当番が行事にあたります。行事の中心はオッタイ、メッタイとよばれる松の木で作った男女の神様を地区内にある東山、西山ふたつの祭場で合体させ模擬性交させることです。しかし、それまでに宿(当番の家)において当番が「ふつつかな娘ですがよろしくお願いいたします」「大事な娘さんをいただきありがとうございます」などいい、三三九度を交わしてオッタイとメッタイに人間さながらの結婚の儀式を行わせます。また、一連の行事を執り行うために、4人の当番は家を離れて7日間ものあいだ共同で精進潔斎した生活を送ります。

 市内では上砥山以外にも男女の神様を合体させて五穀豊穣を祈る山の神行事を行う地域はいくつもあるのですが、上砥山のように結婚式まで執り行うところはありません。また、7日間の行事の中で上砥山の持山である十九道山から採集した“ハナ”とよばれる樒(常緑小高木)を13地区に配り歩く“ハナクバリ”という行事が組み込まれていることも他ではみられない特徴です。

 上砥山がハナを配る13地区はかつて十九道山に立ち入って薪や柴を採集する入会権を持っていた村々といわれ、その範囲は遠く守山市にまで広がっています。また、上砥山は村々を代表して十九道山の入会権を管理する“山親”という立場にありました。記録によればハナクバリは上砥山が“山親”として行っている行事とされ、村々の十九道山における入会権の確認と、権利の主張をするものと推察できます。

 薪や柴が生活の中で欠かすことができなかった時代には、山の入会権を巡って訴訟にいたることもまれではありませんでした。十九道山においても、江戸時代に村内の有力者層を中心にした新田開発が計画され、上砥山村の村びとたちの権利が脅かされる事件が起こっています。こうした歴史的な経緯が、上砥山の山の神行事においてはハナクバリという特徴的な行事を組み込みながら、厳密な形で現代に至るまで受け継がれてきたのでしょう。


(「りっとう再発見」35 『広報りっとう』829号(2008年2月号)掲載)


  

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